名古屋地方裁判所 昭和58年(タ)95号 判決 1983年11月22日
原告
山田花子
右訴訟代理人
青木茂雄
池田伸之
被告
名古屋地方検察庁検察官検事正
谷川輝
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、
昭和五八年三月一一日付名古屋市○区長に対する原告と訴外山田正男との離婚は無効であることを確認する。
との判決を求め、その請求の原因として、
1 原告と訴外山田正男は昭和四四年七月二三日に婚姻の届出をした夫婦であり、その間に一郎及びいずみの二子がある。
正男は昭和五八年四月七日、心不全で急死した。
2 正男は昭和五七年七月に足の負傷で○○病院に入院中、同病院の看護婦と懇意となり、やがて男女関係を生じ、昭和五八年三月頃には自宅と同女のアパートを往復するという二重生活となつていた。
3 原告は右のような正男の不貞を知るに及び、一時の激情から名古屋市○区所在の当時の自宅を飛び出すと共に、正男の署名を離婚届に冒書し、市販の印章で冒捺の上、昭和五八年三月一一日に名古屋市○区長宛の協議離婚届出をした。
4 しかし正男の不貞発覚後において、正男と原告との間で離婚についての話し合いがなされたことはなく、従つて右届出は正男の離婚意思が欠如しており無効である。
5 原告は、家を出て無断で右届出をなして一箇月も経たないうちに正男が急死したことを知つて右の軽挙盲動を後悔し、今後は亡正男の妻としてその供養をなすことを希望して本訴に及んだ。
と述べた。
被告は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされる検察官中松村夫名義の答弁書には、
1 主文第一、二項と同旨の判決を求める。
2 請求原因事実はすべて不知。との記載がある。
理由
当裁判所が原告の本訴請求を棄却した所以のものは、原告の主張(そのうち第1項ないし第3項については、<証拠>によつて概ね事実通りであると認められる。)自体が、その旨の相手方の主張を待つまでもなく、一見して明らかに信義則に反し、認容すべからざるものと判断したことにある。
即ち原告の主張によれば、原告は正男と離婚する意思を有し、これによつて本件離婚届出をして受理され、戸籍上離婚の効果が生じたけれども、正男に離婚の意思がなかつたから右離婚は無効であつたというのであるから、原告は右離婚の結果を欲して自らの行為によつてその結果を作り出したのである。従つて将来正男の死という事態が生じることなく右離婚の効果が争われたら恐らく原告はその有効性を主張したであろう。しかるに本件にあつては原告は、右離婚届出の後に生じた事情(正男の急死)によつて右の離婚が不都合になつたとして、自ら作出した結果(それも文書偽造等の不法な手段によつたものである。)を否定しようとするのであつて、これは明らかに信義に反し、不相当な主張であると言わねばならない。当裁判所はこのような場合、原告の方から、はその離婚の無効を主張し得ないものと解する。
即ち原告の本訴請求は採用し得ない主張に基づいた失当なものであるからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。
(西野喜一)